角(つの)を矯(た)ためて牛を殺す
牛の曲がった角を直そうと手を加えているうちに牛を殺してしまうこと。転じて、少々の欠点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまうたとえ。枝葉末節にこだわって、肝心な根本を損なうことのたとえ。
文は人を表す
文字のみならず、その書いた内容にその人の人間性であったり、人生観、世界観が自ずと現れ出るという考え方。
アゴラ小論文はこの2つを常に思い続けて指導します。要するに最大限、生徒の持つ個性を尊重した指導を心がけるということです。ただし、下記の言葉が連綿と受け継がれ、残されていることにも注意を払う必要があります。
守・破・離(しゅ・は・り)
これは、教育・武道・ビジネスの現場でよく使われる言葉です。世阿弥の考え方をその基とし、茶人、川上不白によって広められたとされます。小論文にあてはめて解説してみます。
「守」…最初の段階です。あらゆることを「型」通りにやります。小学校の頃に教わった表記方法や表現方法を忠実に守るよう努めます。そのうち構成の「型」を学び、自分の主張が「型」通りに行えるまで練習を積み重ねます。これが「守」(修)の段階です。
「破」…次の段階は、自分独自に工夫して、「型」を破っていく段階です。あるところまで上達すると、人は教えられたことを自分がやりやすいように変えたり、教えを少し破ってみるようになります。この段階まで来ると自分なりの「型」を持つようになり、個性が存分に発揮できるようになります。入試小論文の目標はここまでです。
「離」…最後の段階では、指導されることから離れ、自分の「型」をより発展させ、世間に自分の主張を問う段階になります。主張を世に問うて初めて見える世界もあるでしょう。そこからまた「守」が始まることになります。
「守・破・離」で基礎がいかに重要かということがわかると思います。基礎が充実しているからこそ、個性も発揮できるということです。
小論文の設問は大別すると次の2種類に分けられます
【その1】
1行2行の問いかけで生徒自身の個性・職業適性を見るというものです。これは面談の基礎資料として、重要な参考資料となります。ですから、予想される面談と常にリンクしていることを忘れてはなりません。
この手の問題では、文章構成をシンプルにして読みやすさを主眼に置く必要があります。論理的な破談がなければ、主観的ではあっても、自分はどのような人生観を持って生きてきて、未来をどのように生きていきたいかのしっかりした意見を持つ必要があります。身近な話題から時事問題への関心まで、主体的な社会参加の姿勢が問われます。そういう意味で自分を飾り立てたり、ごまかしようのない素直な試験といえるでしょう。看護医療系、教員採用試験、一部の推薦・AO入試に見られる試験形態です。
【その2】
次に挙げるのは大学入試で我々が向き合う課題文が与えられそれを読んで設問に答えるという形態の小論文試験です。次の2点が試験の根幹をなします。
- 文章をまとめなさい(要約)
現代文学習の要約問題とダイレクトにつながります。 - 筆者の意見に対して自分の考えを書きなさい。(論理的思考性)
「近代」というキーワードから派生した諸事象。むろん現代に至るまでの様々な知見が要求されます。ただしここが重要なのですが大学の先生はその道のプロです。知識について感心こそすれ、それが高校生の一般的な知識レベル(失礼を承知であえて浅薄といっておきますが)であっても問題にはならないでしょう。
- 出題者の問いかけについて正しく答えているか(設問分析)
- テーマの設定が妥当かつ一貫しているか(テーマの一貫性)
- 論理的な破綻がないか(論理の整合性)
- 結論に至る根拠が妥当か(妥当な根拠)
- 結論は明瞭か(明確な主張)
- 問の設定-根拠-結論に至る構成が明瞭か(構成)
小論文指導要綱
「今ここから始める小論文」
生徒の過去の学習履歴は問いません。「何」を「いつまで」に仕上げていくか、受ける大学が要求していることと、生徒の現状の分析を行って、学習カルテを作成して無駄なく得点力を向上させます。
手始めに、読む・書く・聞く・話すの領域から簡単なマトリックス図を使って大学分析を行います。その結果に基づいて何をいつまでにどのような順番で行うかを決めていきます。
「読解~要約を核とした小論文」
例えば下記に示すような学習計画を立てます。
学習計画(例)
前期:基礎学力充実期
自分自身のリソースの発見に務めながら、客観的に「読む」能力を高める。
- 要点指摘・要約問題の演習
- 大学試験情報の収集
- 読書による周辺知識の充実を図る
中期:入試学力伸長期
試験の問題に対して読解力の完成を目指すと同時に、自身の問題としてどう落としこむか小論文の実作を通じて思索を深める。
- 小論文実作
- 読書による周辺知識の充実
- 議論を通して思考過程の整理を行う
- 講演会等への参加
後期:入試学力完成期
試験への総合的な対応力を高いレベルで完成させる。
- 小論文予想問題の実作
- 読解力の最終確認
- 口述試験対策
- 読書による周辺知識の充実
ここで特に力を入れるのが、前期の基礎学力充実期です。一般に小論文は何をどのように書くかが全てだと思っている生徒が多いかと思いますが、最近の入試では、課題文に書かれている内容がしっかり読めてるかを確認し、点数化する傾向が強くなっています。要約問題がそれです。要約問題と言えば、東大を始めとして、一橋大、大阪大、名古屋大、東北大、筑波大などが良質の要約関連問題を毎年出しています。
これは、書かれていることを端的に答えることを生徒に要求する大学側の積極的な姿勢と評価することが出来ます。そこでの読み間違いは致命的です。書かれていることは、其処(そこ)在るが儘(まま)で、読む人によって変わるということはありません。だから一層厳しく客観的に自己研鑽を積むしかありません。それに対して自分の考えをぶつけるのが昨今の小論文入試の特徴です。
「現場感覚を通じて知性の鍛錬を」
自力でどうにかなるからこそ、「読む」「書く」を我流で押し通してしまうものです。過去の言語生活で高い読解力・論証力を備えたとの自賛の履歴がないのなら、「読み」「書く」という当たり前の行為がひとりよがりになってないか一度点検する必要があると思います。
読むことは書くことにつながり、書くことは読むことにつながる。この循環こそが知性を高める基本でしょう。現象として眼前に現れたものから、その背後にある見えない部分までを統合してはじめて一つの現象を理解したと言えるのです。理解が促進すればより大きな学問領域の体系に統合されていきます。そこには人類の知の総体がエネルギーとして我々に力を与えてくれるでしょう。
ただ、学問はそこに留まることを良しとしません。現実の場の中で学問が生きてこそ、その意義を果たすものです。ただ単に現象を説明するだけなら、学者の井戸端会議では英雄になれるかもしれませんが、現実の社会で賞賛されることはないでしょう。
やはり、我々は学問を学ぶことで世界を知り、世界を知ることで他人の役に立つ行いをする。その不断の努力が人を人たらしめているのではないでしょうか。人間社会とはそんなものだと思います。ですから、大学は学問の基本「読み」「書く」能力を積極的に問うてくるのです。